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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)1057号 判決

大阪市住吉区苅田九丁目一五番三〇号

原告

株式会社近畿設備

右代表者代表取締役

片柳良和

右訴訟代理人弁護士

橋本賴裕

菊井康夫

清田冨士夫

松尾敬一

山田俊介

大阪府堺市東浅香山町二丁二一三番地

被告

株式会社ジャパンライフ

右代表者代表取締役

栄藤昭彦

右訴訟代理人弁護士

香川文雄

主文

一  被告は、レンジフード用フィルター及びその枠を販売する際、「近畿設備」の商号を使用してはならない。

二  被告は、レンジフード用フィルター及びその枠を販売する際、「近畿設備がジャパンライフにフィルターの販売を依頼している。」「ジャパンライフは近畿設備と関連会社です。」「ジャパンライフは近畿設備の下請けです。」「ジャパンライフは近畿設備の子会社です。」等、被告が株式会社近畿設備(原告)の関連会社である旨を標榜してはならない。

三  被告は原告に対し、金二〇五万一〇〇〇円及びこれに対する平成五年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の金員請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

六  この判決は、第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  主文第一、第二項と同旨

二  被告は原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成五年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  事案の概要

一  当事者(甲第四一、第四二号証、乙第四八号証、第五五号証、被告代表者、弁論の全趣旨)

1  原告代表者は、昭和五九年ころから「近畿設備」の屋号で浄水器やドアストッパー等の販売を開始し、昭和六三年ころからレンジフード用フィルター枠及びフィルターを販売していたものであるが、平成元年一月三〇日に住宅設備機器等の製造販売を目的とする原告会社を設立し、主としてレンジフード用フィルター枠及びフィルターを「フードクリーン」の商品名で訪問販売の方式により販売している。

2  被告は、平成二年六月末ころから同年一二月初めころまで原告に勤務していた栄藤昭彦により平成三年四月六日に設立され、レンジフード用フィルター、浄水器、マンション用ネームプレート、ドアストッパー、マンション玄関用網戸及びワックスの訪問販売を業としている。

二  原告の請求

原告は、被告の従業員が被告の指示に基づき、原告の商品表示、営業表示として周知の「株式会社近畿設備」の商号に類似する「近畿設備」の商号を使用したり、種々の表現で被告が原告の関連会社である旨を標榜するなどして、原告商品より劣る被告商品を販売しており、これによって原告と被告の商品及び営業に混同を生じ、原告は営業上の信用を害されていると主張し、不正競争防止法(平成五年法律第四七号。以下同じ。)二条一項一号、一一号、三条一項に基づき、レンジフード用フィルター及びその枠を販売するについて、「近畿設備」の商号を使用すること及び被告が原告の関連会社である旨を標榜することの停止を求めるとともに、同法四条又は予備的に民法七〇九条に基づき、被告の行為により原告の被った損害五六六万円の内金二〇〇万円と、原告の信用が毀損されたことに伴う無形損害三〇〇万円との合計五〇〇万円(及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成五年二月一四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金)の支払を求めた。

三  争点

1  原告の商号「株式会社近畿設備」は、原告の商品表示、営業表示として需要者の間に広く認識されているか(いわゆる周知性を取得しているか)。

2  被告従業員は、レンジフード用フィルター及びその枠を販売する際、「近畿設備」の商号を使用したり、被告が原告の関連会社である旨を標榜しているか。

これらの行為により、原告と被告の商品及び営業に混同を生じ、原告の営業上の信用が害されているか。

これらの行為につき被告が使用者責任(民法七一五条)を負うか。

3  原告の請求は権利濫用に当たるか。

4  被告が損害賠償責任を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(原告の商号「株式会社近畿設備」は、原告の商品表示、営業表示として需要者の間に広く認識されているか)

【原告の主張】

原告の商号は、レンジフード用フィルター枠及びフィルターについて、以下の販売活動及び宣伝広告等により原告の商品表示、営業表示として需要者の間に広く認識されている。

1 原告のレンジフード用フィルター枠及びフィルターの販売実績等

(一) 原告の本社から代理店又は営業所に対するレンジフード用フィルター枠及びフィルター(商品名「フードクリーン」)の卸販売としての売上金額は、昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日(原告設立の年の決算期)までは約一四〇五万円にすぎなかったが、平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで約一億五四四七万円、平成二年四月一日から平成三年三月三一日まで約二億七九一七万円、平成三年四月一日から平成四年三月三一日まで約三億九八一五万円、平成四年四月一日から平成五年三月三一日まで約六億六八四八万円と順調に増大している。右の売上金額はあくまでも本社から代理店等への売上計上分であり、全国的な代理店が販売するレンジフード用フィルター枠及びフィルターの各年度の総売上額は右の額の約二倍に達しており、例えば平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの総売上額は一二億円余に達している。

(二) その間、原告の販売網は、当初関西地方が中心であったが、代理店を含めると全国的に拡大した。

すなわち、原告は、営業所を名古屋(平成元年四月)、四国(平成三年二月)、福岡(平成三年七月)、東京(平成三年一一月)及び札幌(平成四年五月)に開設し、支社を仙台(平成二年二月)及び広島(平成二年一二月)に設立した(なお、札幌営業所及び仙台支社は別会社たる有限会社ジャパン・プロテクションサービス)。

(三) 現に、原告がレンジフード用フィルター枠及びフィルターを下請会社のうちの一社に製造させた実績も、レンジフード用フィルターについては、昭和六三年度一一万二八〇〇枚、平成元年度二〇万一五〇〇枚、平成二年度三四万五〇〇〇枚、平成三年度三二万七〇〇〇枚、平成四年度八八万八八〇〇枚であり、レンジフード用フィルター枠については、昭和六三年度二万七〇〇〇枚、平成元年度三万五〇〇〇枚、平成二年度四万二一〇〇枚、平成三年度七万一八〇〇枚、平成四年度一〇万四五〇〇枚というように大幅に増加している。

もちろん、原告はこれ以外にも下請をさせており、その他平成三年以降は別企業から毎年約二〇万枚のレンジフード用フィルターを購入している。

(四) 右のとおり販売量が増大したのは、原告が信用力の維持、向上に努めた成果である。すなわち、レンジフード用フィルターは、売切りではなく、レンジフード用フィルター枠を販売した顧客に対しては、継続的に交換用のレンジフード用フィルターを販売できる商品であるが、世上訪問販売に対する批判が多いことから、原告においては、会社名の表示はもちろん、従業員であることの証明(名札等)、的確な商品説明、領収証の発行、苦情受付体制の整備、従業員に対する接客態度の訓練等を徹底してきた。その結果、一度原告のレンジフード用フィルター枠を購入した顧客については、原告の商号を言うだけでレンジフード用フィルターの交換に応じてもらえるようになったのである。

2 原告の宣伝広告等

(一) 原告は、年間約一二〇万枚の大量のパンフレットを配布しているのみならず、平成三年六月には広島ホームテレビで番組放映をし、平成五年二月から同年五月末日までの間連日テレビ大阪でコマーシャルを放映するなど、原告のレンジフード用フィルター枠及びフィルターの宣伝活動を継続的に繰り返した。

(二) また、原告は、広告宣伝活動の効果を伴う求人広告を、昭和六三年以降、株式会社情報センター発行の「ジェイ・ワン」「サガス」、リクルート社発行の「ビーイング」、株式会社学生援護会発行の「アン」「デューダ」等の求人雑誌に継続的に掲載している。

【被告の主張】

原告の主張は争う。

二  争点2(被告従業員は、レンジフード用フィルター及びその枠を販売する際、「近畿設備」の商号を使用したり、被告が原告の関連会社である旨を標榜しているか。これらの行為により、原告と被告の商品及び営業に混同を生じ、原告の営業上の信用が害されているか。これらの行為につき被告が使用者責任〔民法七一五条〕を負うか。)

【原告の主張】

1(一) 被告従業員は、被告のレンジフード用フィルターを、既に原告の顧客となっている者(原告のレンジフード用フィルター枠及びフィルターを購入し、その後継続的に原告のレンジフード用フィルターを購入している者)に売り込むに際して、次のように、「近畿設備」の商号を使用したり、原告の関連会社である旨を標榜している。

(1) 原告が配布したパンフレットを顧客に示して「近畿設備の者です。」と名乗って被告の商品を販売した。

(2) 被告の名前の入ったフィルター商品を入れる袋を所持しているにもかかわらず、あえて無地の袋を使用し、顧客に対し、「近畿設備の者です。」「近畿設備の下請のジャパンライフです。」「近畿設備はすでに製造だけで販売はしていません。」と虚偽の事実を述べたうえ、被告の商品を販売した。

(3) さらに、原告の名前が入った商品袋や領収証を顧客に手渡している事案すらある。

(4) なお、被告従業員は、当初は、「近畿設備」の商号を使用していたが、原告が被告に対し平成四年一〇月八日到達の内容証明郵便で右行為の停止を求めてからは、原告会社の関連会社である旨を標榜しているものである。

(二) 被告従業員のした具体的な不正行為は別紙「不正行為一覧表」及び「不正行為一覧表(第二)」記載のとおりであり、判明しているだけでも一九件にのぼり、そのうち「不正行為一覧表(第二)」記載のものは本訴提起後のものである(このほか、ごく最近にも、広島方面で被告従業員が同種の行為をしている。)。

2(一) 原告の販売するレンジフード用フィルター枠のうち、被告のレンジフード用フィルター枠と競合する商品の形状は、別紙「原告会社フィルター枠(浅型)」記載のとおりである。

また、原告の販売するレンジフード用フィルターは、素材がポリエステル系であるので、油汚れしている状態でも引火しにくく、引火しても素材自体が縮むので、炎を上げて燃え上がることがない。

(二) 被告が原告の顧客に売り込んだレンジフード用フィルター枠は、別紙「被告会社フィルター枠」「被告会社フィルター枠2」に記載のとおり、原告の販売するレンジフード用フィルター枠と形状がほぼ同一である。

また、被告が原告の顧客に売り込んだレンジフード用フィルターは、取り付けるレンジフード用フィルター枠が原告のものとほぼ同一形状であることから、当然、原告の販売するレンジフード用フィルターと形状がほぼ同一であり、色彩もほぼ同一である。しかし、被告の販売するレンジフード用フィルターは、ガラス繊維を素材としており、耐熱温度が高いため繊維自体に火をつけても燃えないが、フィルターに付着した油が炎を上げて燃え上がることが多い。油汚れにより引火のおそれがあるレンジフード用フィルターとしては、原告の商品の方が被告の商品より安全であり、この点は、商品の価値及び原告の商品に対する信用性において極めて重要である。

(三) このように、被告従業員は、原告の販売するレンジフード用フィルターと類似の商品を販売し、その際、前記1記載のとおり、「近畿設備」の商号を使用したり、被告が原告の関連会社である旨を標榜しているのであるから、これらの行為により原告と被告の商品及び営業に混同を生じることは明らかである(不正競争防止法二条一項一号)。

また、被告従業員は、「原告はフィルターを販売していない。」とか、「被告は原告の下請会社、あるいは関連会社である。」などと述べたり、右(二)記載のとおり被告の販売するレンジフード用フィルターは原告の商品に比べ品質が劣るものであるにもかかわらず、「原告と同じ商品です。」と述べてレンジフード用フィルターを販売しているものであるが、このような行為は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知、流布する行為に該当する(不正競争防止法二条一項一一号)。

仮に、右の各行為が不正競争防止法二条一項一号、一一号に該当しないとしても、これらの行為は、偽計による信用毀損及び業務妨害行為として民法七〇九条の不法行為に該当する。

被告は、被告従業員の行為につき民法七一五条により使用者責任を負う。

3 なお、被告従業員が以上のような行為をしているのも、被告代表者自身が原告において勤務していた間に、原告の商品、販売先、販売方法等を知り得たからにほかならない。すなわち、被告代表者は、一【原告の主張】1(四)記載のとおり、一度原告のレンジフード用フィルター枠を購入した顧客については原告の商号を言うだけでレンジフード用フィルターの交換に応じてもらえるようになったことを知っており、従業員をして原告の商号を詐称させているのである。

被告は、被告代表者は原告にアルバイトとして勤務していたにすぎない旨主張するが、被告代表者は原告において営業推進部課長にまで昇進しており、立場上原告の顧客の大部分のマンションの管理人と交渉するまでになっていたのであり、決して短期間のアルバイトなどではない。

【被告の主張】

1 レンジフード用フィルターの業界の実状

(一) マンションにおける台所のレンジ、ガス等厨房の排気は、従来は換気扇のみに頼るしかなかった。

その後、調理時の油煙、熱気、ゴミ等がそのまま戸外に排出されないようにという環境衛生面の配慮と、油汚れしたレンジフード、換気扇等の掃除を簡略にする目的から、換気扇を内蔵したレンジフードについて容易に交換できるフィルターが考案された。レンジフードに合う専門のフィルター枠を作り、この枠にフィルターをはめこみレンジフードにセットする方法である。レンジフード用フィルター枠は半永久的に使用が可能であり、レンジフード用フィルターは容易に交換が可能な使い捨て式である。

(二) レンジフードの外形、サイズはメーカーにより様々であり、フィルター業界では、各フィルター販売会社が専用枠を考案したり発注したりして、一般顧客に販売するが、レンジフード用フィルター枠のレンジフードへの取付けはワンタッチであり、フィルターの交換も簡単であるため、レンジフード用フィルター枠及びフィルターは、各社の商品すべてが同一商品であるような外観を呈するものである。

(三) レンジフード用フィルターの素材は、ガラス繊維とポリエステル素材の二種類であるが、ガラス繊維の方が通気性があり、かつ、油、ゴミの採集効率がよいため、値段はやや高いものの、業界全体では八対二ないし七対三の割合でガラス繊維を素材とする商品の方が販売量が多い。被告においても、ガラス繊維を素材とする商品の方が八対二の割合で圧倒的に多い。

ガラス繊維素材のレンジフード用フィルターとしては、ダスキンが輸入する英国製のものと、日本無機株式会社(以下「日本無機」という。)が製造するものとがあり、被告は日本無機製のもの(商品名「コスモフィルター」)を株式会社ヨーシン商会(以下「ヨーシン商会」という。)から仕入れている。

ポリエステル素材のレンジフード用フィルターのメーカーは、日本無機、バイリン株式会社及び金井重要工業株式会社の三社であり、レンジフード用フィルターの販売会社は右三社のいずれかのフィルターを販売している。被告は、設立当初から、メーカー(現在は金井重要工業株式会社)に繊維の打ち込み数、厚み、固さ、大きさを指定してオーダー製品を発注して販売している。原告も、右三社のいずれかにオーダー製品を発注して販売している。そのほか、オーダー製品ではなく右三社のいずれかの一般商品を仕入れて販売している会社も多い。

(四) レンジフード用フィルターの販売会社としては、原告及び被告のほか、関西日販、大川商店、大広フィルター、ライフコーポレーション、ボンドル、ウイングコーポレイションなどがある。

そのほか、各社でフィルターの訪問販売を経験した従業員個人が独立して、問屋業を営む大広フィルターからレンジフード用フィルターを購入して営業している例も多い。

訪問販売のほか、じゅうたん、カーペット等の販売会社である有限会社アーク、株式会社ピュアライフ、ヨーシン商会、日本ヘルシー株式会社、ダスキン等が、マンション建築会社と提携して、分譲マンション入居時に長期のフィルター契約を締結し、その後は管理人に委託する例が相当にある。

このように、多数の業者が様々の販売形態をとって競っている。

(五) レンジフード用フィルターの訪問販売員は、原告、被告を問わず、アルバイト情報誌等で募集する。各訪問販売員は、既存のマンション及び新築の分譲又は賃貸マンションに戸別訪問をしてフィルター付きのレンジフード用フィルター枠及び交換用フィルターを販売する。販売員は専らアルバイトであり、かつ、営業の内容がマンションへの訪問販売であり給与は主として歩合給であるため、競争は激しく、会社への定着率は一般に悪く、常時アルバイト情報誌に求人情報を掲載する必要がある。原告、被告とも、週二、三回のペースで求人広告を出している。

2 被告代表者が原告に勤務していた当時の勤務実態について

(一) 被告代表者は、アルバイト情報紙に掲載された求人広告に応募し、平成二年六月末ころから同年一二月初めころまで原告にアルバイトとして勤務し、レンジフード用フィルターの訪問販売に従事していた。

(二) 当時原告本社の従業員は約二〇名であり、営業部一五ないし一八名(ただし変動が多い。)、営業推進部二名、業務部一名という編成であった。

このうち、営業部は、フィルターを戸別訪問で販売する。

また、マンションでは、約九〇パーセントの世帯が入居当初から、ガラス繊維素材のレンジフード用フィルターの業者との間で長期にわたり商品の供給を受けることを約するものであり、その管理委託業務を管理人がしているが、原告の営業推進部は、右のようなマンションの管理人を歴訪して、原告の販売するポリエステル素材のレンジフード用フィルターを売り込む担当部である。

(三) 被告代表者は平成二年八、九月ころ、営業部から営業推進部に異動し、課長の名刺をもらったが、部長の作井勝(以下「作井」という。)と被告代表者の二名だけの部であり、課長名は単に対外的な名称であって、被告代表者のアルバイトとしての地位に変化はなく、課長手当等も一切支給されなかった。

3 被告の設立の経緯とその営業実態

(一) 被告代表者は、同年一二月原告を退社し、作井が同年一一月に独立して設立した創和コーポレーションに入社してレンジフード用フィルターの販売をしたが、平成三年三月退社した。

そして、被告代表者は、同年四月八日、被告代表者の住所のある堺市を本店所在地として被告を設立し、営業所を大阪市港区におき、同年六月営業を開始した。

被告は、同月三日、堺市長に法人設立・事務所等開設申告書を、同月四日、堺税務署長に法人設立届出書を各提出し、また、平成三年七月三日、同年一〇月一五日、大阪港郵便局長から料金受取人払いの承認を得た。

(二) レンジフード用フィルターは、新規にレンジフード用フィルター枠とともに販売する場合を除いては、交換用フィルターの販売が訪問販売の主流であるので、被告は、継続的な交換取引が可能になるよう、以下のとおり、外部的には顧客に信用され被告の名前が覚えてもらえるような努力をし、内部的にも各種の十分な管理を心掛けてきた。したがって、被告従業員が原告の商号を詐称したり、原告の関連会社である旨を標榜することなどあり得ない。

(1) 営業開始時に、被告社名入りのパンフレットと領収証を印刷した。

(2) 社名入りの各種封筒、宣伝用シール、名刺も順次作成し、さらに、振込銀行の口座を示した領収証や新しいパンフレットも作成した。

(3) 販売するレンジフード用フィルターの袋は、従前は無地のものであったが、中に《御使用上のご注意》と題する社名入りのチラシを入れており、平成四年一〇月二二日には、社名を印刷したビニール袋の使用を始あた。

(4) 訪問販売をする従業員は、従前は胸に名札を付けるだけであったが、平成四年二月から合服、夏服、冬服の三種の制服を季節に応じて着用することになった。さらに、平成五年三月には、これらの制服の右胸に被告社名を印刷して会社名を明示するようになった。

(5) 平成四年一一月から平成五年九月ころにかけて、阪神高速道路神戸線(尼崎地区)と第二阪和(和泉市)の各沿線にある電光広告板に「換気扇フィルターのジャパンライフ」としたうえ、被告の電話番号を表示した広告を出し(二四時間休みなく、五分に一回電光表示)、被告の社名を広めた。

(6) 被告の訪問販売員はアルバイト情報等をみて入社したアルバイトではあるが、社会保険や厚生年金保険には平成三年八月ころから、労災保険、雇用保険には平成四年四、五月ころから、住友生命の掛捨て団体保険には同年一一月から加入するなど、厚生部門も順次整備していった(被告代表者が在職していたころの原告には、このような扱いは一切なかった。)。

訪問販売員の入社に際しては、全員に営業マニュアルを配布し、被告代表者自ら、三、四時間かけて研修を行い、商品の知識、被告の名を印象づけてのトークや接客態度を教え込んでいた。

毎朝朝礼を施行し(午前一一時出勤)、連絡事項、注意事項を伝達するなどして、礼儀正しい販売を常に教育し、信用のおける被告の従業員として活動するよう求め、また、被告名を明確にして継続的な取引ができるよう強調してきた。

(7) 被告においては、創業以来NEC製パソコンで各社員の売上、販売経費、一般管理等を毎日記録し、会社の営業内容を明らかにする資料としている。

4 原告主張の被告従業員の不正行為について

(一) 原告が被告従業員のした具体的な不正行為として列挙する別紙「不正行為一覧表」「不正行為一覧表(第二)」記載の事実は、以下に示すとおり、大部分は被告と無関係であり、被告従業員によるものも、正当な営業行為である(なお、番号は、別紙「不正行為一覧表」「不正行為一覧表(第二)記載のもの)。

(1) 1の事実

甲第一号証では、原告名を詐称したのがどこの会社の従業員であるのか全く特定されていない。甲第一号証には、作成名義人の小川が被告に電話をしたら、商品を返してくれたらお金を返すと言った旨記載されているが、小川は被告に電話をしていない旨述べている。

(2) 2の事実

被告名の入った正規の領収証を発行しており、被告従業員による正当な販売である。質問されれば「近畿設備と同じ効果のある商品を扱っている。」と答えるのは当然である。

(3) 3ないし6の事実

いずれも袋に被告名の表示がなく、領収証も発行していないから、被告従業員によるものではありえない。なお、4の事実に関与したとされる大川勇は、平成四年六月一五日に被告を退社している。

(4) 7の事実

被告名の表示のある袋を持ち、被告名の入った正規の領収証を発行しており、被告従業員による正当な販売行為である。「近畿設備と同じ効果のある商品」である旨述べたとしても、何ら非難に値しない。

甲第八号証の裏面には、右従業員が「近畿設備から依頼されて作っている商品」である旨述べたと記載されているが、これは原告従業員のメモであり、顧客の言葉であるのか信用できない。

(5) 8の事実

被告名の入った正規の領収証を発行しており、被告従業員杉本裕一(以下「杉本」という。)による正当な販売行為である。甲第一〇号証は、原告が一方的に記載したものであり、その内容は信用できない。

(6) 9の事実

被告名の表示のある袋を持っていたというのであるから、被告従業員によるものと思われる。しかし、甲第一二号証は原告が一方的に記載したものであり、顧客の述べたとおりに記載されているか疑わしい。領収証の点について記載がないことからすると、原告が捏造した疑いもある。

(7) 10の事実

袋に被告名の表示がなく領収証も発行していないから、被告従業員によるものではない。なお、被告のポリエステル素材のレンジフード用フィルター(フィレドンフィルター)の販売価格は、一袋一〇枚入りで四五〇〇円、消費税を加算して四六〇〇円であるから、甲第二九号証記載のように販売価格が四六五〇円というのは被告の商品にはあり得ない。

(8) 11の事実

甲第三〇号証の内容は伝聞によるもので、あいまいで信用できない。

(9) 12の事実

当時被告は愛知県では販売活動をしていない。

(10) 13及び14の事実

いずれも門真市内の新築マンションであり、被告従業員が各家庭を戸別訪問し、被告名の入った正規の領収証を発行して被告のガラス繊維素材のレンジフード用フィルターを販売したものである。新規の入居者にとって業者はいわばどこでもよいのであり、被告従業員が、被告が「近畿設備の枝分かれ」などと説明する必要はない。

(21) 15の事実

被告名の入った正規の領収証を発行しており、被告従業員による正当な販売行為である。被告従業員は、「近畿設備から商品を卸してもらっている」などと言っていない。

(12) 16の事実

被告名の表示のある袋を持ち、被告名の入った正規の領収証を発行しており、被告従業員によるガラス繊維素材のレンジフード用フィルターの正当な販売行為である。

(13) 17ないし19の事実

被告従業員の関与したものであるかどうかは全く明らかにされていない。18の事実に至っては、調査に当たった原告従業員自身が、被告とは直接関係ないと思う旨証言している。

5 原告及び被告が販売するレンジフード用フィルター枠及びフィルターについて

(一) 原告は、被告が販売するレンジフード用フィルター枠及びフィルターが、原告が販売するものと形状がほぼ同一であると主張する。

右は、あたかも、原告がレンジフード用フィルター枠及びフィルターを、他に先行して、独占的に販売しているかのような主張である。

しかし、レンジフード用フィルター枠及びフィルターが世に出たのは約一五年前のことであり、原告自身右の業界に参入したものである。そして、レンジフード用フィルター枠及びフィルターは各社の商品すべてが同一商品であるような外観を呈するものであることは、1(二)記載のとおりである。

(二) 原告は、被告の販売するガラス繊維素材のレンジフード用フィルターが、原告の販売するポリエステル素材のレンジフード用フィルターより性能が劣る旨主張するが、レンジフード用フィルターの素材としてはガラス繊維の方が優れており、ポリエステル素材のものより広く使用されていることは、1(三)記載のとおりである。

ガラス繊維素材のレンジフード用フィルターと、ポリエステル素材のレンジフード用フィルターとをサラダ油にたっぷり浸して取り出し、それらに火をつける実験をすると、乙第二四号証(パンフレット)の写真のように、前者は炎を上げて燃え上がるのに対し、後者は全体的に縮れ何か所にも火がつくものの前者ほど燃え上がらないのであるが、これは、極めて作為的な実験である。ガラス繊維素材のレンジフード用フィルターが、通常の使用の過程で、それも右乙第二四号証にいう「サラダ油が付着」した程度で燃え上がることはない。

三  争点3(原告の請求は権利濫用に当たるか)

【被告の主張】

1 原告代表者は、昭和六一年一二月ころ、水洗トイレ器具訪問販売業を営む大和工業の代表者であったが、水道局の者だと偽って老人宅等を訪問し、壊れてもいない水洗トイレの部品を強引に取り換えさせる手口の詐欺事件を起こしている。

2 原告代表者は、同業他社の販売に対して極めて嫉妬心と猜疑心が強く、これを妨害しようとしている。

例えば、平成三年二月一二日午後八時ころ、創和コーポレーションの販売員塚田毅に対し暴行を加えるなどして、逮捕監禁致傷で住吉警察署に告訴されている。

また、原告及び原告代表者は、訴外株式会社東和に対し、公知の意匠(レンジフード用フィルター)について製造・販売の差止と損害賠償を求めて大阪地方裁判所に訴えを提起したが、公然実施の意匠であることが明らかとなり、第二回口頭弁論を待たずして右訴えを取り下げた。

この他、原告は、他社に対して脅しの電話をかける等、いやがらせをしている。

3 原告は被告に対し、次のようないやがらせをしている。

(一) 平成三年七月ころ、「近畿設備の顧問をしている政友会の藤井やけど、おのれどいうつもりで会社やっとんねん、会社つぶしに今から行ったうか。」と延々と続く脅しの電話があった。

(二) 平成三年一一月ころ、神戸市垂水区舞子及び北区のマンションに、「現存会社は見当りません」とのゴム印が押捺された被告の商業登記薄謄本申請書(申請者は原告従業員。)の写し(乙第五一号証)と、「ジャパンライフという業者には、くれぐれもご注意下さい」と被告を誹謗する文言が太字で記載されたチラシ(乙第五二号証)とが軒並み貼りつけられた。

(三) 原告代表者は、平成三年一二月下旬ころまで、三、四回被告会社内に無断で立ち入り、従業員に脅しをかけるような発言をした。あまりにひどい怒鳴り方なので、被告がパトカーの救援を求めたこともある。

(四) 原告は、平成三年から平成四年にかけて、被告の営業を誹謗する虚偽の事実を書き列ねたチラシを各マンションに配布し(乙第二五号証はその一例である。)、ガラス繊維フィルターは付着した油に引火して燃え上がるとか、発ガン性があるという虚偽の記載をしたパンフレット(前記二【被告の主張】5(二)記載の乙第二四号証)を広範囲に配布している。

また、原告は、乙第三四号証ないし第四三号証(お問い合せ表)に示されるように、販売員に、「被告の会社は存在しない。」等の悪宣伝をさせるとともに火災の危険性あるいは発ガン性を言い立てさせ、被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布している。

4 以上のとおり原告は、自ら数々の不正行為をし、特に被告の営業上の信用失墜を目的とするパンフレット等(乙第二四、第二五号証、第五一、第五二号証)を作成して会社ぐるみでこれを広く配布し、各販売員をして被告に対する中傷をさせている極めて悪質な会社であるから、原告の請求は権利濫用に当たり、棄却されるべきである(被告の主張では「権利濫用」の語は明示されていないが、その趣旨に徴し、予備的に「権利濫用」の主張をするものと解される。)。

【原告の主張】

1 被告の営業を誹謗する虚偽の事実を書き列ねたチラシであるとして被告が問題にする乙第二五号証では、「大阪市港区にある株式会社ジャパンライフは大阪市内では会社登記されていません。」と記載しているにすぎず、これは事実に合致している。

むしろ、被告は会社の所在地として設立当初から現在に至るまで「大阪市港区磯路二丁目二-一三」と表示し、いずれの文書にも被告の登記された本店所在地を示していない。これでは仮に消費者が被告を相手に訴えを提起しようとしても、被告の住所が分らず訴えを提起できないことになり、被告の従来の販売方法からすれば、あえて本店所在地を隠しているとしか思えない。

2 被告は、原告が乙第二四号証のパンフレットにガラス繊維フィルターは付着した油に引火して燃え上がると虚偽の記載をしている旨主張するが、ガラス繊維素材のレンジフード用フィルターとポリエステル素材のレンジフード用フィルターとで、油が付いた場合の燃え上がり方が違うのは明らかであり、被告代表者も本人尋問の中で認めている。

3 原告が販売員により被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布していることの証拠として被告の提出した乙第三四号証ないし第四三号証は、いずれも作成名義人の作成にかかるものではなく、その内容も全くの虚偽である。

四  争点4(原告に賠償すべき損害の額)

【原告の主張】

1 被告は、ポリエステル素材のレンジフード用フィルター(フィレドン)については、一〇枚七〇〇円で仕入れ、一〇枚一パック四五〇〇円で販売しているから、八五パーセントの粗利益が発生していることになる。

そして、被告のレンジフード用フィルター枠及びレンジフード用フィルターの平成三年ないし平成六年の各年度の売上高約一億円のうち、ポリエステル素材のレンジフード用フィルターの占める割合は一割とのことであるので、被告は、四年間でおよそ四〇〇〇万円のポリエステル素材のレンジフード用フィルターを販売し、合計三四〇〇万円の粗利益を得ている。これに対し、ポリエステル素材のレンジフード用フィルターについては、原告の販売網が圧倒的であること、もともと「近畿設備」の商号を詐称しなければ被告の商品は売れず、被告の販売する商品の約三分の一は原告の販売する商品と誤認して購入されていること等を総合すれば、少なくとも五六六万円(三四〇〇万円×二分の一×三分の一)は、被告の不正競争行為又は不法行為によって得られたものというべきであり、これが原告の損害となる。

原告は、このうち二〇〇万円を請求するものである。

2 そのほか、原告は、被告の不正行為により連日顧客に対応し、顧客のもとまで赴いて調査に走り回り、消費者センターにまで事情説明に行き、困り果てて警告書を発送したにもかかわらずこれも被告から無視され、裁判中も被告が不正行為を繰り返したため、これに要した費用は計りしれないものがある。

また、被告の不正な販売方法により原告の信用も著しく毀損されたので、その無形損害は三〇〇万円を下らない。

【被告の主張】

原告の主張は争う。

第四  争点に対する判断

一  争点1(原告の商号「株式会社近畿設備」は、原告の商品表示、営業表示として需要者の間に広く認識されているか)について

1  原告の商品の販売実績等(甲第一八号証ないし第二二号証、第二六号証、第四一号証及び弁論の全趣旨によって認められる。)

(一) 原告の商品の売上高は、昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日の間が一四〇一万一六〇三七円、平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの間が一億五四四七万三二三三円、平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの間が二億七九一七万八四八四円、平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの間が売上高三億九八一五万四九九七円、平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの間が六億六八四八万五一二四円(売上四億二七三三万五〇七四円、卸売上二億四〇六三万〇五五四円、メンテナンス売上五一万九四九六円)であり、順調に増大している。

右の売上高のすべてがレンジフード用フィルター枠及びフィルターによるものというわけではないが、その大部分を占める。また、右の売上高は、被告の本社から代理店等への売上計上分であり、代理店が販売するレンジフード用フィルター枠及びフィルターの販売額は、右の売上高の二倍程度に達する。

(二) 右のような売上高の増大に伴い、原告がレンジフード用アルミ枠及びフィルターを製造させている下請会社のうち、八幡金網株式会社製造分も、次のとおり増加している。

すなわち、レンジフード用フィルターについては、昭和六三年度一一万二八〇〇枚、平成元年度二〇万一五〇〇枚、平成二年度三四万五〇〇〇枚、平成三年度三二万七〇〇〇枚、平成四年度八八万八八〇〇枚であり、レンジフード用フィルター枠については、昭和六三年度二万七〇〇〇枚、平成元年度三万五〇〇〇枚、平成二年度四万二一〇〇枚、平成三年度七万一八〇〇枚、平成四年度一〇万四五〇〇枚である。

2  原告の販売網(甲第二三号証の1~5、第二四号証の1~16、第二五号証の1~14、第四一号証、証人伊東英晴の証言及び弁論の全趣旨によって認められる。)

原告の販売網は、当初関西地方が中心であったが、右1のとおりレンジフード用フィルター枠及びフィルターの販売が伸張するとともに、代理店を含めると全国的に拡大した。

すなわち、原告は、関西以外では、営業所を名古屋(平成元年四月)、四国(平成三年二月)、福岡(平成三年七月)、東京(平成三年一一月)及び札幌(平成四年五月)に開設し、支社を仙台(平成二年二月)及び広島(平成二年一二月)に設立した(なお、札幌営業所及び仙台支社は別会社たる有限会社ジャパン・プロテクション・サービス)。

また、関西では、営業所を難波(平成三年九月)及び神戸(平成四年四月)に開設した。

2  原告の宣伝広告等(甲第二七、第二八号証、第四一号証、乙第二二号証ないし第二四号証、証人伊東英晴の証言及び弁論の全趣旨によって認められる。)

(一) 原告は、宣伝広告活動として、年間約一二〇万枚のパンフレットを配布しているのみならず、平成三年六月には広島ホームテレビで番組放映をし、平成五年二月から同年五月末日までの間連日テレビ大阪でコマーシャルを放映するなど、原告のレンジフード用フィルター及びフィルター枠の宣伝活動を継続的に繰り返し、その際原告の商号を表示している。

(二) また、原告は、昭和六三年三月以降株式会社情報センター発行の求人雑誌「ジェイ・ワン」「サガス」に、遅くとも平成元年以降株式会社学生援護会発行の求人雑誌「アン」「デューダ」に原告名(原告設立前は「近畿設備」)で求人広告を各掲載し、その他株式会社リクルート発行の「ビーイング」等の求人雑誌にも継続的に求人広告を掲載しており、その中には原告のレンジフード用フィルター及びフィルター枠の広告もあわせて掲載しているものもある。求人雑誌への求人広告の頻度は、必ずしも一定していないが、最近では毎週二誌ずつ程度である。

3  レンジフード用フィルター及びフィルター枠の販売に際しての原告商号の使用(甲第一号証、第一七号証、第二五号証の1~14、第三九号証、第四〇号証、第四二号証、乙第四四号証、証人戎井俊憲、証人伊東英晴、証人花浦啓三の各証言及び弁論の全趣旨によって認められる。)

原告のレンジフード用フィルター枠及びフィルターの販売方法は、主として、マンションを戸別に訪問して新規にレンジフードにフィルターを留めるためのレンジフード用フィルター枠及びフィルターを売り込み、購入した客には定期的に訪問して交換用のフィルターを継続的に販売するという訪問販売であり、その訪問販売に際して、販売員は、自ら「株式会社近畿設備」の者である旨名乗るほか、〈1〉左胸に「近畿設備」と織り込んだ制服を着用し、〈2〉「株式会社近畿設備」の印刷のある名刺を入れた名札を付け、〈3〉レンジフード用フィルターは「株式会社近畿設備」の印刷のあるビニール袋に入れたものを販売し、〈4〉代金を受領したときには必らず「株式会社近畿設備」又は「(株)近畿設備」の印刷のある領収証を発行しており、〈5〉販売員が営業活動に用いる社用車にも「株式会社近畿設備」の表示がある。

4  結論

以上1ないし3認定の事実によれば、原告は設立以来レンジフード用フィルター枠及びフィルターを中心に売上を増大させ、平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの売上高は三億九八一五万四九九七円、平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの売上高は六億六八四八万五一二四円に達し、全国に営業所、支社、代理店等を展開し、大量のパンフレットの配布、番組の放映、求人雑誌への求人広告の掲載等により原告の営業及びその販売するレンジフード用フィルター枠及びフィルターの宣伝広告をし、また、レンジフード用フィルター枠及びフィルターの訪問販売に際しては、制服、名札、商品を入れるビニール袋、領収証、社用車に原告の商号の表示をしていたというのである。

そうすると、原告の販売する主たる商品がレンジフード用フィルター枠及びフィルターであって、その販売方法は主としてマンションの戸別訪問販売によるものであるという事情も考慮すれば、原告の商号は、遅くとも平成四年の前半までにはレンジフード用フィルター枠及びフィルターの販売に関して原告の商品表示及び営業表示として広く認識されるに至ったものということができる。なお、原告の販売するレンジフード用フィルター枠及びフィルターには「フードクリーン」という商品名があるが、その販売の方法は右のとおり訪問販売であって、販売員は「株式会社近畿設備」を名乗って売込みをしており、特に「フードクリーン」という商品名を強調して販売しているわけではなく、消費者は、店頭販売の場合とは異なり、主として原告の商号によって商品を識別しているものと認められる(甲第一号証、第四、第五号証、第八号証、第一〇号証、第二九号証ないし第三七号証、証人戎井俊憲、証人伊東英晴、証人杉本裕一、証人須田広宣、証人花浦啓三、弁論の全趣旨)から、右商品名の存在は、原告の商号が原告の商品表示として周知性を取得したとの右認定を何ら妨げるものではない。

二  争点2(被告従業員は、レンジフード用フィルター及びその枠を販売する際、「近畿設備」の商号を使用したり、被告が原告の関連会社である旨を標榜しているか。これらの行為により、原告と被告の商品及び営業に混同を生じ、原告の営業上の信用が害されているか。これらの行為につき被告が使用者責任〔民法七一五条〕を負うか。)について

1  証拠(甲第一号証ないし第三号証、第八号証ないし第一四号証、第三〇号証、第三二号証ないし第三五号証、乙第五五号証、証人戎井俊憲、証人伊東英晴、証人杉本裕一、証人須田広宣、証人花浦啓三、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告においても、原告におけると同様訪問販売によってレンジフード用フィルター及びフィルター枠を販売しており、販売員の給与については歩合給制を採用している。

(二) 被告が販売するレンジフード用フィルターは、ガラス繊維を素材とするものとポリエステル繊維を素材とするものとがあり、八対二の割合でガラス繊維を素材とするものの方が多いが、ポリエステル繊維を素材とするものの方が歩合給がよい。

(三) レンジフード用フィルター枠及びフィルターについては、前記のとおり、消費者(マンション居住者)方のレンジフードにフィルターを留めるためのレンジフード用フィルター枠及びフィルターをまず販売し、その後継続的に交換用のフィルターを販売するという販売形態が採られるため、既に原告のレンジフード用フィルターを購入している顧客に被告がレンジフード用フィルターを販売することは、一般に困難である。また、原告の商号が原告の商品表示、営業表示として周知性を取得しているため、後発企業である被告は、販売面で相当の努力を要する状況であった。

(四) 以上の事情から、被告従業員の中には、被告のレンジフード用フィルターを、既に原告の顧客となっている者に売り込むに際して、「近畿設備の者です。」等と言って近畿設備の商号を使用する者があった。

(五) 原告が被告に対し平成四年一〇月八日到達の内容証明郵便で右行為の停止を求めたところ、被告代表者の指示もあって、被告従業員は近畿設備の者である旨断定的に述べることは少なくなった。

しかし、被告従業員は、その後も、被告のレンジフード用フィルターを、既に原告の顧客となっている者に売り込むに際し、顧客から「近畿設備ですか。」と聞かれても否定せず、ことさら「メーカーです。」とあたかも被告が原告にレンジフード用フィルターを卸販売しているかのような印象を与えるあいまいな答えをしたり(これは、後記のとおり被告代表者の指示に基づくものである。)、相づちを打つように「はい、はい。」などと返答して肯定したとの印象を与える者があった。さらに、「近畿設備と同じものを販売している。」「(被告は)近畿設備の下請である。」「近畿設備は最初の取付けだけで、その後の交換はうちがやっている。」「被告が近畿設備に商品を卸している。」「(被告は)近畿設備が枝分かれした会社である。」「被告は近畿設備から商品を卸してもらっている。」などと、「近畿設備」の名を挙げて被告が原告と関連する会社であるかのように述べるケースも多い。また、被告においては、当初は商品を入れる袋自体には被告の名を印刷しておらず、袋の中に被告の名を印刷した紙を入れていたが、被告従業員には、被告の名を隠すため、この紙を取り出して販売する者もいた。なお、被告従業員は、ポリエステル繊維を素材とする商品とガラス繊維を素材とする商品の両方を持ち歩いて、相手に応じてどちらかを販売するが、被告が原告と関連する会社であるかのように述べるのは、ポリエステル繊維を素材とする商品を販売する場合に限られない。

被告代表者は一応これらの行為をやめるように言ってはいたが、厳しくは注意せず、売上が歩合給の額に直結するため被告従業員はこれを聞かず、最終的には被告代表者としても放置ないし黙認していた。のみならず、被告代表者は、被告従業員に対し、顧客から「近畿設備ですか。」と聞かれたときは「メーカーです。」と答えるよう指示していた。

(六) 以上のように被告従業員がレンジフード用フィルター等の商品を販売する際、「近畿設備」の商号を使用したり、原告の関連会社である旨を標榜した行為として、具体的に年月日、売込みの相手方である消費者名を特定できるのは、別紙「不正行為一覧表」の番号1、2、7、8、9記載の行為及び別紙「不正行為一覧表(第二)」の番号11、13ないし16記載の行為である。この他、平成六年一〇月ころ、広島方面で被告の従業員が「近畿設備の下請である。」旨述べてレンジフード用フィルターを販売した例がある。

以上の事実が認められ、乙第五五号証、証人杉本裕一の証言、被告代表者の供述中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない(右「不正行為一覧表」、「不正行為一覧表(第二)」記載の行為のうち、右認定以外のものは被告従業員によるものと断定するに足りる証拠がない。)。

被告は、レンジフード用フィルターの継続的な交換取引が可能になるよう、外部的には顧客に信用され被告の名前が覚えてもらえるような努力をし、内部的にも各種の十分な管理を心掛けてきたから、被告従業員が原告の商号を詐称したり、原告の関連会社である旨を標榜することなどあり得ないと主張するが、被告従業員がレンジフード用フィルター等の商品を販売する際、現に「近畿設備」の商号を使用したり、原告と関連のある会社であると標榜していることは、右認定のとおりである。

2(一)  原告の販売するレンジフード用フィルター枠のうち、被告のレンジフード用フィルター枠と競合する商品の形状は、別紙「原告会社フィルター枠(浅型)」記載のとおりであり、被告が売り込んだレンジフード用フィルター枠の形状は、別紙「被告会社フィルター枠」「被告会社フィルター枠2」に記載のとおりであって、原告と被告の販売するレンジフード用フィルター枠の大きさはほぼ同一である。また、原告と被告の販売するレンジフード用フィルターも形状が類似している(検甲第一号証ないし第一三号証)。

(二)  このように原告の販売するレンジフード用フィルター及びフィルター枠と形状、大きさが類似しているレンジフード用フィルター及びフィルター枠を販売するに際し、被告従業員が、原告の商品表示及び営業表示として周知の「株式会社近畿設備」に類似する「近畿設備」の商号を使用したり、「近畿設備」の名を挙げて被告が原告と関連する会社であるかのように述べれば、原告と被告の商品及び営業に混同を生じることは明らかである(不正競争防止法二条一項一号にいう「混同」には、類似の商品表示又は営業表示を使用する者が、自己と周知の商品主体又は営業主体との間に系列関係などの緊密な営業上の関係があるように誤信させることも含まれる〔いわゆる広義の混同〕。)。

なお、レンジフード用フィルター枠及びフィルターは、その性質上単純な形態であり、各社の製品すべてが被告主張のように同一商品であるような外観を呈するとまではいえないにしても、相当似通っており、外観だけで識別することは容易ではないが(乙第一三号証、第二四号証、第二七号証、第二八号証の1・2、第二九号証ないし第三三号証、検甲第一号証ないし第一三号証)、この点は、本件では原告の販売するレンジフード用フィルター枠及びフィルターの形態の商品表示性が問題となっているのではないから、原告と被告の商品及び営業の混同についての前記判示を何ら左右するものではない。

3  以上によれば、被告従業員による不正競争行為は、被告従業員が被告の事業の執行につきなしたものであることは明らかであり、被告代表者は、これらの行為を積極的に奨励しているわけではなく、一応これらの行為をやめるように言ってはいたものの、厳しくは注意せず、最終的には放置ないし黙認しており、さらには、被告従業員に対し、顧客から「近畿設備ですか。」と聞かれたときは「メーカーです。」と答えるように指示までしていたのであるから、被告自身の行為と評価すべきものであり、したがって、これらの不正競争行為の差止めを求める原告の請求は、他に格別の事由がない限り、理由があることになる。

また、被告が被告従業員の選任及び監督につき相当の注意をなしたと認められないことは、右説示から明らかであるから、被告は、他に格別の事由のない限り、民法七一五条に基づき右不正競争行為により原告の被った損害を賠償すべき義務を負うことになる。

4  さらに、原告は、原告の販売するレンジフード用フィルターは、素材がポリエステル系であるので油汚れしている状態でも引火しにくく、引火しても素材自体が縮むので炎を上げて燃え上がることがないのに対し、被告の販売するレンジフード用フィルターは、ガラス繊維を素材としており耐熱温度が高いため繊維自体に火をつけても燃えないが、フィルターに付着した油が炎を上げて燃え上がることが多いから、油汚れにより引火のおそれがあるレンジフード用フィルターとしては原告の商品の方が被告の商品より安全であり、この点は商品の価値及び原告の商品に対する信用性において極めて重要であるところ、被告従業員が原告商品に比べ品質が劣る被告のレンジフード用フィルターを「原告と同じ商品です。」と述べて販売する行為は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知、流布する行為に該当する旨主張する。

しかし、レンジフード用フィルターとして通常の使用をする場合において、ポリエステル素材の商品とガラス繊維素材の商品の間で引火性について原告が主張するほど顕著な差異があると認めるに足りる証拠はない(原告のパンフレットである乙第二四号証には、原告の主張に沿う記載とともに、ガラス繊維素材のレンジフード用フィルターが炎を上げて燃えている写真と、原告の販売するポリエステル素材のレンジフード用フィルターが火をつけてもほとんど燃えていない写真とが掲載されているが、右写真の実験は、レンジフード用フィルターをサラダ油に浸して大量にサラダ油を染み込ませた上で着火したものである疑いがあり〔被告代表者〕、レンジフード用フィルターとしての通常の使用条件によるものか疑義がある。)。むしろ、証拠(乙第五五号証、証人戎井俊憲、証人杉本裕一、証人須田広宣、証人花浦啓三、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、ガラス繊維を素材とするレンジフード用フィルターの方がポリエステルを素材とするレンジフード用フィルターより通気性があり、かつ、油、ゴミの採集効率がよいというメリットがあるため、値段はやや高いが、業界全体の使用割合は八対二ないし七対三でガラス繊維を素材とする商品の方が多いことが認められる。また、被告が販売しているポリエステル素材のレンジフード用フィルターは、当初は既製品を購入していたが、平成四年ころから平成五年一〇月ころまでは丸山産業に、それ以降は金井重要工業株式会社に特注して生産させており(その際、商品の通気性、捕集効率等について打合せをする。)、原告が販売するものより薄くて柔かいものではあるが(証人戎井俊憲、証人伊東英晴、証人須田広宣、被告代表者)、特に性能が劣ると認めるに足りる証拠はない。

このほか、原告は、被告従業員が「原告がフィルターを販売していない。」「被告は原告の下請会社、あるいは関連会社である。」などと述べてレンジフード用フィルター枠及びフィルターを販売する行為も、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知、流布する行為(いわゆる営業誹謗行為。不正競争防止法二条一項一一号)に該当する旨主張するが、これらの行為は虚偽ではあるが、前記の不正競争防止法二条一項一号の商品主体・営業主体混同行為として評価すれば足り、さらにそれを超えて営業誹謗行為が成立するような事情は認められない。

三  争点3(原告の請求は権利濫用に当たるか)について

被告は、原告は第三の三【被告の主張】1ないし3記載のとおり自ら数々の不正行為をし、特に被告の営業上の信用失墜を目的とするパンフレット等(乙第二四、第二五号証、第五一、第五二号証)を作成して会社ぐるみでこれを広く配布し、各販売員をして被告に対する中傷をさせている極めて悪質な会社であるから、原告の請求は権利濫用に当たり、棄却されるべきである旨主張するので、以下検討する。

1  証拠(乙第五〇号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告代表者は、昭和六一年一二月ころ水洗トイレ器具訪問販売業を営む大和工業の代表者であったが、そのころ、右大和工業の従業員が、水道局の者だと偽って老人宅等を訪問し、壊れてもいない水洗トイレの部品を強引に取り換えさせたとして詐欺罪容疑で逮捕されたことが認められる(これに原告代表者自身が関与していたかどうかは明らかではない。)。

2(一)  被告は、原告代表者が平成三年二月一二日午後八時ころ創和コーポレーションの販売員塚田毅に対し暴行を加えるなどして、逮捕監禁致傷で住吉警察署に告訴されたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(二)  原告及び原告代表者は、訴外株式会社東和に対し、意匠権に基づき製造・販売の差止と損害賠償を求めて当庁に訴えを提起したが(平成五年(ワ)第一一八三号)、第二回口頭弁論期日前に右訴えを取り下げたことは、当裁判所に顕著である。

(三)  被告は、原告は他社に対して脅しの電話をかける等、いやがらせをしている旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

3(一)  被告は、平成三年七月ころ、「近畿設備の顧問をしている政友会の藤井やけど、おのれどいうつもりで会社やっとんねん、会社つぶしに今から行ったうか。」と延々と続く脅しの電話があった旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(二)  証拠(乙第五一、第五二号証、第五五号証、証人杉本裕一、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告の従業員は、平成三年一一月ころ、神戸市垂水区舞子のマンションに、「現存会社は見当りません」とのゴム印が押捺された被告の商業登記簿謄本申請書(原告従業員が、被告の本店所在地を「大阪市港区田中二丁目六-二六」として申請したもの)の写(乙第五一号証)と、「…最近、当マンション内のお客様宅に、弊社のフィルターと同じものですと偽って、弊社のものより薄く、また、油の吸収量が少ない長持ちしないフィルターを一割程度安く販売に来るジャパンライフという業者がありますが、フィルターが二、三割薄い為、かえって高くつくという苦情が弊社に多数寄せられております。尚、ジャパンライフという業者は、自社の社名を隠し近畿設備ですと偽ってお客様がだまされるという事例も数多く聞いておりますので、ジャパンライフという業者には、くれぐれもご注意下さい。…」などと記載したチラシ(乙第五二号証)を貼り付けたことが認められる(神戸市北区のマンションについては、同様の事実を認めるに足りる証拠はない。)。

(三)  被告は、原告代表者は平成三年一二月下旬ころまで三、四回被告会社内に無断で立ち入り、従業員に脅しをかけるような発言をし、あまりにひどい怒鳴り方なので、被告がパトカーの救援を求めたこともあると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(四)  証拠(乙第二五号証、第五五号証、証人杉本裕一、証人須田広宣、証人花浦啓三、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成三年から平成四年にかけて、「…【大阪市港区にある株式会社ジャパンライフという業者の者が】↓(大阪市内では会社登記されていません。)このたび、当マンションに○近畿設備の名前を語って○近畿設備の取引業者と偽って○近畿設備の関連会社と言って 粗悪な交換用フィルターを販売しておりますので、暮々もご注意下さい。〈悪質業者の手口〉○販売員自身の身分をはっきり言わない。○身分を証明する物を持っていない。○領収書を発行しない、渡してくれない。○各家庭によって値段が違う。○業者の名前のない商品を販売している。」などと記載したチラシを配布し、また、従業員をして、消費者に対し、ジャパンライフは会社ではない、幽霊会社であるとか、アフターサービスができないなどと言わせたことが認められる。

(五)  証拠(乙第二四号証、第四七号証、第五五号証、証人杉本裕一、証人須田広宣、証人花浦啓三)及び弁論の全趣旨によれば、原告のパンフレット(乙第二四号証)には、「他社のガラス繊維フィルターにご注意下さい!!」との見出しのもとに「ガラス繊維フィルターは、耐熱温度が高い為、繊維自体に火をつけても燃えませんが、フィルターに付着した油に引火した場合、大きな炎となって燃え上る事があり、非常に危険な事が今までの事例や当社の実験によって明らかです。(左下写真参照)」との記載があり、「サラダ油が付着したガラス繊維に火を付けるとこうなります。」として、前記のとおりガラス繊維素材のレンジフード用フィルターが炎を上げて燃えている写真と、原告の販売するポリエステル素材のレンジフード用フィルターが火をつけてもほとんど燃えていない写真とが掲載され、その他にも「●交換の時チクチクする!●油がたれやすく長持ちしない!!●使用中小さな破片が料理の上にパラパラ落ちる!!●石綿(アスベスト)代替品であるガラス繊維にも発ガン性があるのではないかとの疑いがあり、現在専門機関で調査中です。」との記載があり、ガラス繊維に発がん性がある旨の新聞記事が掲載されていること、原告が訪問販売員に対する研修に使用するマニュアル(乙第四七号証)には、消費者への原告商品売込みの文言として「ガラス繊維は、チクチクするし料理の上にパラパラ落ちます。」「つららのようになって油が、たれやすいし あみがついていないのでたれて落ちてくる。」「厚いので吸い込みが、悪い 表面に付着した油が、燃えやすい」などと記載されていること、原告の訪問販売員も右パンフレット、マニュアル記載のような内容を消費者に説明していることが認められる。

(六)  その他、原告が販売員により被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布していることの証拠として被告の提出した乙第三四号証ないし第四三号証は、いずれも真正に成立したものでないことが甲第四三号証ないし第四五号証及び被告代表者の供述によって明らかである。

4  以上1ないし3で認定した事実のうち、1及び2(二)の事実は、本件と直接関連しないものである(原告と被告の間の問題ではない。)。

また、3(二)の事実のうち、乙第五二号証に、「ジャパンライフという業者は、自社の社名を隠し近畿設備ですと偽ってお客様がだまされるという事例も数多く聞いておりますので、ジャパンライフという業者には、くれぐれもご注意下さい。…」とある点、3(四)の事実のうち、乙第二五号証に、被告従業員が「○近畿設備の名前を語って○近畿設備の取引業者と偽って○近畿設備の関連会社と言って」交換用フィルターを販売しているとあり、また、「〈悪質業者の手口〉○販売員自身の身分をはっきり言わない。○身分を証明する物を持っていない。○領収書を発行しない、渡してくれない。○各家庭によって値段が違う。○業者の名前のない商品を販売している。」とある点は、二1で認定した事実及び証人杉本裕一、証人須田広宣の証言により、当時被告においては主任になって初めて名刺が交付され、それまでは身分を証明するものがなかったこと、被告従業員の中には、領収証を発行しなかったり、自己の歩合給が下がるのを覚悟で値引き販売をした者もいたことが認められることから概ね事実に合致するということができるから、これらの点を理由に原告の請求を権利濫用として排斥することができないことは明らかである。

これに対し、3(二)の事実のうち、原告の従業員が、平成三年一一月ころ、神戸市垂水区舞子のマンションに、「現存会社は見当りません」とのゴム印が押捺された被告の商業登記簿謄本申請書の写(乙第五一号証)を貼りつけた行為、3(四)の事実のうち、原告のチラシに被告は「(大阪市内では会社登記されていません。)」と記載した行為については、なるほど、これを厳密に注意深く読めば原告主張のように「大阪市内で」被告の登記がされていないことを記載したにすぎないということもできないではないが、わざわざ右のような点を強調すると消費者に対しては被告が全く設立登記を経ていない法人格のない会社であるとの印象を与えるものであり、現に前記のとおり原告が従業員をして消費者に対し被告は会社でないとか幽霊会社であるなどと言わせていたことに照らすと、原告もそのような印象を与えることを意図していたといわざるを得ないから、右行為は相当とはいい難い。また、3(五)のガラス繊維素材のレンジフード用フィルターに関するパンフレット(乙第二四号証)、マニュアル(第四七号証)の記載及び原告従業員の消費者への説明は、ガラス繊維の問題点を誇大に言い立てているきらいがある。しかし、だからといって、これらを理由に、被告従業員が「近畿設備」の商号を使用したり、被告が原告と関連のある会社である旨を標榜することが正当化されるとか、原告が被告従業員による右行為の差止め及び損害賠償を請求することが権利濫用として許されないということにはならない。

四  争点4(原告に賠償すべき損害の額)

(一)  原告は、被告の不正競争行為による損害額について、被告のレンジフード用フィルター及びフィルター枠の平成三年ないし平成六年の各年度の売上高約一億円のうち、ポリエステル素材のレンジフード用フィルターの占める割合は一割とのことであるので、被告は四年間でおよそ四〇〇〇万円のポリエステル素材のレンジフード用フィルターを販売し、合計三四〇〇万円の粗利益を得ている(ポリエステル素材のレンジフード用フィルターについては、一〇枚七〇〇円で仕入れ、一〇枚一パック四五〇〇円で販売しているから、八五パーセントの粗利益が発生している。)ところ、ポリエステル素材のレンジフード用フィルターについては原告の販売網が圧倒的であること、もともと「近畿設備」の商号を詐称しなければ被告の商品は売れず、被告の販売する商品の約三分の一は原告の販売する商品と誤認して購入されていること等を総合すれば、少なくとも五六六万円(三四〇〇万円×二分の一×三分の一)は、被告の不正競争行為によって得られたものというべきであり、これが原告の損害となると主張する。

しかし、被告の商品の売上高、そのうちポリエステル素材のレンジフード用フィルターの占める割合、ポリエステル素材のレンジフード用フィルターについての仕入価格(一〇枚七〇〇円)・販売価格(一〇枚一パック四五〇〇円)・粗利益率(八五パーセント)については、被告代表者の供述により右主張のとおり認められるが、被告の販売する商品の約三分の一は原告の販売する商品と誤認して購入されているとの事実については、証人須田広宣の証言中にはこれに沿うかのような部分もあるものの、被告従業員が「近畿設備」の商号を使用したり、原告と関連のある会社である旨を標榜した行為として具体的に年月日、売込みの相手である消費者名を認定できるのは二1(六)説示の一〇件(別紙「不正行為一覧表」の番号1、2、7、8、9及び「不正行為一覧表(第二)」の番号11、13ないし16)にとどまるので、右証言を採用することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

しかして、右一〇件のうち、番号11、13の件はキャンセルされているので(証人伊東英晴、甲第三二号証)、いわゆる有形損害の算定からは除外するものとし、その余の八件のうち番号8(四パック)及び16(一パック)の二件はガラス繊維素材の、1(二パック)、2、7(各一パック)、9、14、15(各二パック)の六件はポリエステル素材のレンジフード用フィルターが各販売されたものであるところ(甲第一ないし第三号証、第八号証ないし第一二号証、第三三号証ないし第三五号証、証人戎井俊憲、証人伊東英晴、証人杉本裕一、弁論の全趣旨)、被告代表者の供述によれば、被告においては、レンジフード用フィルターのうち、ガラス繊維素材のものについては、六枚一〇〇〇円で仕入れ、六枚一パック三六〇〇円で販売しているので、合計五パックで一万三〇〇〇円の粗利益を上げ、ポリエステル素材のものについては、一〇枚七〇〇円で仕入れ、四五〇〇円で販売しているので、合計一〇パックで三万八〇〇〇円の粗利益を上げたことが認められ、他に格別の主張立証のない本件では、右の合計五万一〇〇〇円をもって、被告が前示不正競争行為により得た利益の額と認めるのが相当である(なお、これらの中には、定価より安く販売されているものもあるが、被告においては値引きは訪問販売員の負担となるので、考慮しない。)。

したがって、原告は、被告の不正競争行為により右と同額の有形損害を被ったものと推定される。

(二)  証拠(甲第四二号証、証人戎井俊憲、証人伊東英晴)及び弁論の全趣旨によれば、被告従業員が「近畿設備」の商号を使用したり、原告と関連のある会社である旨を標榜したこと等により、消費者の間で、原告と被告の商品及び営業に混同を生じ、その結果、被告の販売するレンジフード用フィルターについての不満や被告従業員の行為についての不満が、原告に向けられることになり、原告の信用が毀損されたこと、これを回復するために原告は多大の労力と時間をかけることを余儀なくされたことが認められ、かかる無形損害を填補するに足りる金員は二〇〇万円と認めるのが相当である。

第五  結論

よって原告の請求のうち差止請求を認容し、損害賠償請求は、二〇五万一〇〇〇円及び平成五年二月一四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 本吉弘行 裁判官小澤一郎は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 水野武)

不正行為一覧表

番号 不正行為日 平成年・月・日 消費者名 不正行為の内容 書証番号

1 4・9・18 小川孝子 (大阪市福島) 近畿設備の者と会社名を詐称フィルターの袋に名前なし領収証発行せず 甲第一号証

2 4・9・24 宇田正弘 (東大阪市) 近畿設備と同じ物を扱っていると欺岡フィルターの袋に名前なしジャパンライフの領収証発行 甲第二・三号証

3 4・9・24 藤田幸司 (堺市) 近畿設備の者です領収証なし 甲第四号証

4 4・9中旬 八尾利男 (守口市) 近畿設備の会社名詐称(連絡先を近畿設備と指定)袋に名前なし領収証をポストに入れておくといって、入れず 甲第五号証

5 4・9・30 岡林秋文 (和泉市) 袋に表示なし領収証発行せず 甲第六号証

6 4・10・9 梅原功 (豊中市) 袋に表示なし連絡先説明せず 甲第七号証

7 4・11・24 小谷美幸 (河内長野市) 近畿設備に依頼されている下請けですけどと欺岡この商品に代ったと欺岡袋にジャパンライフの名前有ジャパンライフの領収証 甲第八・九号証

8 5・1・6 皆黒裕子 (川西市) 近畿設備は取り付けだけでフィルターの交換はしていませんフィルターの交換は、近畿設備から依頼されてうちのような販売会社に任されています 甲第一〇・一一号証

9 真木幸子 (神戸市) 近畿設備に頼まれている 甲第一二号証

不正行為一覧表(第二)

番号 不正行為日 平成年・月・日 消費者名 不正行為の内容 書証番号

10 5・6・25 阿部恵利子 (大阪市住之江区) 近畿設備の者ですといってジャパンライフの商品を売却袋は無地 二九号証

11 5・7・2 主婦 (明石市) ジャパンライフが近畿設備に商品をおろしている。同じ商品です。 三〇号証

12 5・7・3 長尾義治 (愛知県小村市) 近畿設備です領収証発行せず 三一号証

13 5・7・6 中村志子 (門真市) 近畿設備は枝分かしている同じ商品です被告会社の領収証 三二号証

14 5・7・6 小西育代 (門真市) 近畿設備は枝分かしている同じ商品です近畿設備はアフターサービスがない会員証もない 三三号証

15 5・7・8 廣永美恵子 (明石市) ジャパンライフは近畿設備から商品をおろしてもらっている(近畿設備)の金網のついた商品はもう作っていない被告会社の領収証 三四号証

16 5・7・9 頃 太田一二郎 (加古川市) 近畿設備の者ですと会社名を詐称袋はジャパンライフと表示 三五号証

17 5・7・14 西崎 (和歌山市) 近畿設備に頼まれて配達している 三六号証

18 5・7・14 奥園 (大阪市此花区) コスモフィルターと名乗り、原告会社の社名の入った袋入りの商品を売ろうとした 三七号証

19 5・7・15 大谷栄 (神戸市須磨区) 近畿設備の者ですと会社名を詐称無地の袋で売却 三八号証

被告会社フィルター枠

〈省略〉

原告会社フィルター枠(浅型)

〈省略〉

被告会社フィルター枠2

〈省略〉

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